言いにくいことを角を立てずに伝える「アサーション」入門|管理職必須の対話術

アサーションとは何か、管理職の対話力を高める5つのステップを示すインフォグラフィック 部下育成

「部下に厳しいことを言いたいけど、関係が悪くなるのが怖い…」

「上司の無理な要求を断りたいけど、どう伝えればいいか分からない」

管理職になると、こうした対立を避けられない場面が日常的に訪れます。私自身、営業部長として8年間、数え切れないほどの難しい対話を経験してきました。

そんな時に必要なのがアサーションというスキルです。

本記事では、研修では教えてくれない「現場で本当に使えるアサーション」の実践方法を、具体的な場面と改善例とともに解説します。部下指導、上司への提案、他部署との調整など、明日から使える対話のテクニックが身につきます。

アサーションとは?管理職に必要な理由

アサーションとは、自分の意見や感情を率直に表現しながら、相手の立場や感情も尊重するコミュニケーションスキルのことです。

「自分も相手も大切にする対話の技術」とも言えます。

管理職がアサーションを身につけるべき3つの理由

①部下育成に必須のスキルだから

部下の成長のためには、時に厳しいフィードバックが必要です。しかし、感情的に叱責したり、遠回しに伝えたりしては効果がありません。事実を基に率直に、かつ相手の成長を願う姿勢で伝えるアサーションが求められます。

②上司や他部署との交渉で必要だから

現場の状況を理解してもらうために、上司に「NO」を言わなければならない場面があります。また、他部署との調整では、自部署の利益だけを主張しても協力は得られません。双方が納得できる着地点を探る対話力が必要です。

③心理的安全性の高い組織を作るから

管理職がアサーティブに振る舞うことで、チーム内に「率直に意見を言っても大丈夫」という雰囲気が生まれます。これは、心理的安全性の高い組織づくりに直結します。

研修で教わる理論と現場のギャップ

アサーション研修では「DESC法」「I(アイ)メッセージ」など、様々なフレームワークを学びます。しかし、実際の現場では理論通りにいかないことも多いのです。

なぜなら、相手の感情や状況、組織のパワーバランスなど、複雑な要素が絡み合うからです。

本記事では、理論だけでなく「現場でどう使うか」という実践的な視点で解説していきます。

管理職が陥りやすい3つのコミュニケーション失敗パターン

まず、管理職が陥りがちな失敗パターンを見ていきましょう。あなたも思い当たる節があるかもしれません。

失敗パターン①「いい人でいたい」症候群

❌ NG例:部下の遅刻に対して

「まあ、今回は仕方ないよね…。次から気をつけてね」

(本心では困っているのに、嫌われたくないから注意できない)

関係を悪くしたくないという思いから、言うべきことを言えない状態です。一見優しく見えますが、問題は解決せず、本人の成長機会も奪ってしまいます。

また、他のメンバーからは「あの人には甘い」と不公平感を持たれるリスクもあります。

失敗パターン②「立場を使った押しつけ」

❌ NG例:部下への指示

「いいから黙ってやれ。管理職の私が決めたことだから」

(部下の意見を聞かず、一方的に押し通す)

管理職という立場を盾に、自分の意見を押し通すパターンです。短期的には物事が進むように見えますが、部下のモチベーションは下がり、主体性も失われていきます。

さらに、部下からの報告や相談も減り、問題が見えにくくなるという悪循環に陥ります。

失敗パターン③「関係悪化を恐れて回避」

❌ NG例:他部署との調整

「まあ、今回は我慢しましょう。波風立てたくないので…」

(本来主張すべきことを、対立を避けて飲み込んでしまう)

対立や衝突を極端に恐れ、問題から目を背けてしまうパターンです。一時的に平穏は保たれますが、根本的な問題は解決せず、いずれ大きなトラブルに発展する可能性があります。

また、自部署のメンバーからは「守ってくれない上司」として信頼を失うリスクもあります。

管理職が陥りやすい3つのコミュニケーション失敗パターンの比較図
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アサーションの5つの実践ステップ

それでは、具体的にどうすればアサーティブな対話ができるのか、5つのステップで解説します。

ステップ①事実を客観的に伝える

✅ ポイント

感情や憶測ではなく、観察できる事実だけを具体的に伝えることが重要です。

例:「今週、3日連続で朝礼に遅刻していますね」

(×「最近やる気がないよね」←これは憶測)

事実を伝えることで、相手も反論しにくく、冷静な対話の土台ができます。

ステップ②自分の感情・意見を率直に表現する

✅ ポイント

「私は〜と感じている」というI(アイ)メッセージで伝えます。

例:「遅刻が続くと、他のメンバーの士気にも影響するのではないかと心配しています」

(×「あなたのせいでみんなが迷惑している」←これは攻撃)

自分の感情を率直に伝えることで、相手に誠実さが伝わります。ただし、感情をぶつけるのではなく、あくまで「私はこう感じている」という事実として伝えることがポイントです。

ステップ③相手の立場・感情を理解する

✅ ポイント

相手の話を遮らず、まず聞く姿勢を示すことが大切です。

例:「何か理由があるのかもしれない。話を聞かせてもらえますか?」

一方的に伝えるだけでなく、相手の事情や感情を理解しようとする姿勢が、対等な関係を作ります。

実際に聞いてみると、「子どもの送迎で朝の時間が厳しくなった」など、背景事情が分かることも多いのです。

ステップ④Win-Winの解決策を探る

✅ ポイント

「どちらか一方が我慢する」ではなく、双方が納得できる解決策を一緒に考えます。

例:「始業時間の30分前倒しは難しいかもしれないけど、朝礼だけは参加できるように調整できないでしょうか?」

この段階では、複数の選択肢を出し合い、互いに譲歩できる点を探ります。重要なのは、「上司が決める」のではなく、「一緒に考える」というスタンスです。

ステップ⑤合意と実行をフォローする

✅ ポイント

合意した内容を明確にし、実行状況を確認することで、対話を完結させます。

例:「では、来週から朝礼の10分前には来るという形でいいですね。1週間後にまた状況を確認させてください」

合意だけして放置すると、問題が再発します。フォローまでがアサーションの一連のプロセスです。

アサーションの5ステップを実践するフローチャート

✅ 効率化を加速するツール

アサーションを活かした1on1面談を体系的に管理したい方は、SmartHRの面談機能が効果的です。面談記録やフィードバックの蓄積により、部下との対話の質が向上します。

フィードバックの履歴を可視化することで、成長の軌跡が明確になり、次の対話もスムーズになります。

場面別アサーション実践例

理論だけでは分かりにくいので、実際の場面でどう使うか見ていきましょう。

ケース①部下に厳しいフィードバックを伝える

状況:部下の営業報告書に数字の誤りが多く、取引先からクレームがあった

❌ NG例

「何度言ったら分かるんだ!こんなミスばかりして、やる気あるのか?」

(感情的に叱責。相手は萎縮するだけで改善につながらない)

✅ 改善例(アサーション活用)

ステップ①事実:「今月の報告書で、3件の数字に誤りがありました。取引先からも指摘がありました」

ステップ②感情:「このまま続くと、信頼関係に影響が出るのではと心配しています」

ステップ③理解:「何か原因があると思うのですが、話を聞かせてもらえますか?」

ステップ④解決策:「チェックリストを作って、最終確認のステップを入れるのはどうでしょう?」

ステップ⑤フォロー:「来週の報告から試してみて、2週間後に効果を確認しましょう」

この伝え方なら、部下は問題を自分事として受け止め、改善に向けて主体的に動けます。

ケース②上司に無理な要求を断る

状況:上司から「今週中に新規提案書を3本作れ」と言われたが、既存業務で手一杯

❌ NG例

「はい、分かりました…」

(内心は無理だと思いながらも、断れずに引き受けて結局破綻する)

✅ 改善例(アサーション活用)

ステップ①事実:「今週は既にA社とB社の提案対応で予定が埋まっています」

ステップ②意見:「3本を今週中というのは、品質を保つのが難しいと考えています」

ステップ③理解:「急ぎの背景を教えていただけますか?納期調整の余地はありますか?」

ステップ④提案:「1本を今週、残り2本を来週前半なら対応できます。もしくは、簡易版を今週中に提出し、詳細版を後日という形も可能です」

このように、代替案を提示しながら断ることで、上司も納得しやすくなります。

ケース③他部署との調整で譲れない線を守る

状況:営業部から「納期を2週間短縮してほしい」と依頼されたが、製造現場の負荷を考えると無理

❌ NG例

「営業の都合は分かりますが、こちらも無理なので」

(一方的に断るだけで、関係が悪化する)

✅ 改善例(アサーション活用)

ステップ①事実:「現在、製造ラインは稼働率95%で、既存案件で手一杯の状況です」

ステップ②意見:「2週間短縮すると、品質リスクと従業員の過重労働が懸念されます」

ステップ③理解:「営業としては、顧客との約束があるのですよね。背景を詳しく聞かせてください」

ステップ④Win-Win:「全体の2週間短縮は難しいですが、一部の工程を優先的に回して、10日短縮なら可能です。それで顧客と再調整できませんか?」

自部署の事情を明確に伝えつつ、相手の立場も理解し、Win-Winの着地点を探る姿勢が重要です。

部下指導、上司への提案、他部署調整の3つの場面でのアサーション実践例
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アサーションと昇格試験の関係

このアサーションスキルは、昇格試験の面接やケーススタディでも重要な評価ポイントとなります。管理職候補者として、自分の考えを論理的に伝えつつ、相手の立場も理解できる対話力が問われるのです。

面接で評価されるアサーティブな回答例

質問例:「部下と意見が対立した時、どのように対応しますか?」

❌ NG回答

「管理職として、最終的には私が決定します」

(一方的で、部下の意見を尊重していない)

✅ 評価される回答

「まず部下の意見を最後まで聞き、なぜそう考えるのか背景を理解します。その上で、私の考えも率直に伝え、双方の意見の良い点を活かした第三の案を一緒に探ります。最終判断は管理職として責任を持ちますが、プロセスでは対等な対話を心がけます」

このように、自分も相手も尊重する姿勢を示すことが、管理職としての成熟度を表します。

ケーススタディでの活用ポイント

ケーススタディ試験では、組織内の対立や調整が課題として出題されることが多くあります。その際、以下のポイントを意識すると評価が高まります。

  • 関係者それぞれの立場や主張を整理する
  • 一方的な解決策ではなく、Win-Winを目指す姿勢を示す
  • 感情論ではなく、事実とロジックで説明する
  • 実行後のフォロー体制まで言及する

これらはアサーションの実践そのものです。

まとめ:アサーションは管理職の信頼の源泉

アサーションは、単なるコミュニケーションテクニックではありません。自分も相手も尊重するという、管理職としての基本的な姿勢そのものです。

この記事で紹介した5つのステップを、まずは小さな場面から実践してみてください。

  1. 事実を客観的に伝える
  2. 自分の感情・意見を率直に表現する
  3. 相手の立場・感情を理解する
  4. Win-Winの解決策を探る
  5. 合意と実行をフォローする

日常の1on1、会議での発言、メールでのやり取りなど、どんな場面でも応用できます。

最初はぎこちなく感じるかもしれません。しかし、続けていくうちに、チームの雰囲気が変わり、信頼関係が深まっていくことを実感できるはずです。

管理職としてのコミュニケーション力をさらに高めたい方は、プロのキャリアコーチによる1on1支援もおすすめです。客観的なフィードバックを受けることで、自分では気づかない課題が見えてきます。

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