「〇〇さんの昇格推薦文、今月中に出してください」
人事からそう頼まれて、手が止まったことはありませんか。評価コメントなら毎期書いているのに、推薦文となると何をどこまで書けばいいのか、急にわからなくなるんですよね。
私は大手企業で部長をしていて、自分の部下の推薦文を書く立場でもあり、推薦会議で他部署から上がってきた推薦文を読む立場でもあります。読む側に回って痛感するのは、推薦文の出来で、候補者の印象がかなり変わるということです。
先に結論を言うと、部下の推薦文は褒め言葉を並べる文章ではありません。本人を知らない人に「この人なら次の役職を任せられる」と判断してもらうための材料です。この記事では、そのための文章の型と、役職別の例文をまとめました。
✅ この記事でわかること
・推薦文と評価コメント・自己推薦文の違い
・推薦文を「結論→事実→根拠→伸びしろ」の4ブロックで書く方法
・書く前に部下から材料を集める5つの質問
・主任・係長/課長/部長への推薦文の例文
・推薦文で損をする5つの書き方と提出前チェック
部下の推薦文は「本人を知らない人」が読む書類
推薦文を書くとき、つい頭に浮かべるのは部下本人や、一緒に働いている自分の上司かもしれません。でも実際に読むのは、人事部や他部署の部長、役員など、その部下と一緒に働いたことのない人であることがほとんどです。
本人を知らない人は、「頑張り屋です」「誠実な人柄です」と書かれても判断のしようがありません。読み手が知りたいのは、性格の良さより「次の役職を任せても大丈夫か」の根拠なんです。
推薦文・評価コメント・自己推薦文の違い
上司が書く文章には評価コメントもありますし、昇格試験では本人が書く自己推薦文を求められることもあります。3つは似ていますが、答えている問いが違います。
| 項目 | 評価コメント | 推薦文 | 自己推薦文 |
|---|---|---|---|
| 書く人 | 上司 | 上司 | 本人 |
| 答える問い | 今期どう働いたか | 次の役職を任せられるか | 自分はなぜ昇格にふさわしいか |
| 時間軸 | 今期の振り返り→次期の期待 | これまでの事実→次の役職 | 過去→現在→未来をつなぐ |
| 基本の型 | 事実→評価→期待 | 結論→事実→根拠→伸びしろ | 結論→実績→学び→貢献→決意 |

評価コメントは「今の役職での働きぶり」を評価するもの。推薦文は「一つ上の役職でやっていけるか」を上司が保証するものです。評価コメントをそのまま貼りつけた推薦文が弱くなるのは、問いがずれているからなんですね。
評価コメントの書き方と、本人が書く自己推薦文の書き方は、それぞれ別の記事で解説しています。
推薦会議で読み手が確かめていること
推薦文を読む側が確かめているのは、突き詰めると「この人に任せて大丈夫か」の一点です。課長候補の推薦なら、次の4つの問いに分けられます。
✅ 課長候補の推薦で確かめられる4つの問い
・この人がいなくても、チームは回るか
・課の数字を自分の言葉で語れるか
・嫌われる判断から逃げないか
・上や横と交渉できるか
主任・係長や部長の推薦でも、問いの中身が役職に合わせて変わるだけで、構造は同じです。推薦文は、この問いに上司として先回りして答える文章だと考えてください。
推薦される側がこの問いにどう備えればいいかは、こちらの記事で整理しています。部下に読んでもらうのもおすすめです。
推薦文は「結論→事実→根拠→伸びしろ」の4ブロックで書く
私が推薦文を書くときは、いつも次の4つのブロックで組み立てています。読む側に回ったとき「判断しやすい」と感じる推薦文も、だいたいこの順番になっています。
| ブロック | 書くこと | 分量の目安 |
|---|---|---|
| 1. 結論 | 誰を、どの役職に、なぜ推すのか | 1〜2文 |
| 2. 事実 | 上司が見た場面・行動・結果 | いちばん厚く |
| 3. 根拠 | 次の役職の仕事を「もうやっている」証拠 | 2〜3文 |
| 4. 伸びしろ | 課題を1つと、上司としての支え方 | 1〜2文 |

ブロック1 結論:誰を、どの役職に、なぜ推すのかを1文で
推薦会議では、何人分もの推薦文を続けて読みます。冒頭で「何を言いたい文章か」がわからないと、読み手はそこで集中が切れてしまいます。
✅ 結論の1文の例
「〇〇さんを係長に推薦します。後輩の育成とチームの業務改善を、すでに係長の立場で担っているためです。」
ブロック2 事実:場面・行動・結果を、数字とチームの変化で
推薦文の中心はここです。書くのは、上司である自分が見た、または確認した事実。どんな場面で、本人が何をして、結果がどうなったかを書きます。
結果は、数字と「チームがどう変わったか」の両方があると強くなります。本人の成果だけでなく、周りが変わった事実があると、読み手は役職が上がったあとの姿を想像しやすいんです。
ブロック3 根拠:次の役職の仕事を「もうやっている」証拠
ここが、評価コメントとの一番の違いです。「今の役職で優秀」は、それだけでは推薦理由になりません。優秀なプレイヤーが、優れた管理職になるとは限らないからです。
書くべきなのは、次の役職の仕事の一部をすでに担っている証拠です。上司の代わりに会議に出ている、後輩の育成計画を任されている、他部署との窓口になっている。「この人はもう半分その仕事をしています」と言える事実が、いちばんの推薦理由になります。
ブロック4 伸びしろ:課題を1つと、上司としての支え方
意外に思われるかもしれませんが、欠点がひとつも書かれていない推薦文は、読む側からすると少し不安になります。「本当に見ているのかな」「盛っていないかな」と感じてしまうんです。
課題を1つだけ正直に書き、昇格後に上司としてどう支えるかまで添える。これで推薦文の信頼性が上がりますし、推薦者が責任を持って送り出していることも伝わります。選ぶ課題は、昇格を見送る理由になるようなものではなく、「経験の幅」のような伸びしろにしましょう。
書く前に、部下から「材料」を集める
上司は、部下の仕事をすべて見ているわけではありません。推薦文を書き始める前に、本人から材料をもらっておくと、事実のブロックが一気に厚くなります。私は1on1の時間を使って、次の5つを聞いています。
✅ 材料を集める5つの質問
1. この1〜2年で、いちばん手応えのあった仕事は?そのとき何をした?
2. その結果、数字やチームはどう変わった?
3. 私の代わりに引き受けた仕事はある?
4. うまくいかなかったことと、そこから変えたことは?
5. 昇格したら、最初に何に手をつけたい?
3つ目の答えはブロック3の根拠に、4つ目はブロック4の伸びしろに、そのまま使えます。人事評価の自己評価シートを一緒に見返すのも効率的です。
❌ やりがちな失敗
忙しさのあまり、推薦文の下書きを部下に丸ごと書いてもらうケースです。本人の言葉で書くと、どうしても自己推薦文と同じ文章になります。上司が推薦する意味は、上司の目で見た事実と評価が入ること。材料はもらっても、文章は自分の言葉で書きましょう。
【役職別】部下の推薦文 例文
4ブロックの型は同じでも、「根拠」に書く中身は推薦する役職によって変わります。
| 推薦する役職 | 根拠に書きたいこと |
|---|---|
| 主任・係長 | 後輩への声かけ・やり方の共有、上司の仕事の引き取り |
| 課長 | 任せる力、課の数字への責任、判断、他部署との交渉 |
| 部長 | 課を越えた全体最適の判断、次の課長の育成 |

以下の例文は、どれも350字前後です。会社の書式に合わせて、事実のブロックで長さを調整してください。
一般社員→主任・係長への推薦文 例文
✅ 例文(カスタマーサポート部門・約340字)
〇〇さんを主任に推薦します。後輩の育成と、チームの対応品質を底上げする仕組みづくりを、すでに担っているためです。
〇〇さんは昨年度、新人3名のOJTを任され、自ら作成した対応手順のチェックリストを使って指導しました。3名とも予定より1か月早く独り立ちし、チーム全体で上席に引き継ぐ問い合わせの件数も前年より約2割減っています。また、私が不在の日の朝礼と当番表の調整を引き受け、現在はほぼ任せています。
主任は、後輩の指導を個人の頑張りではなく、チームの仕組みとして回す役割です。〇〇さんはその仕事をすでに始めており、昇格後も同じ水準で続けられると判断しました。
一方、他部署との調整経験はまだ多くありません。着任後は開発部門との定例会に私と同席させ、半年をめどに窓口を任せる予定です。
主任・係長の推薦では、「自分の成果」から「チームの成果」へ物差しが切り替わっているかが見られます。その切り替わりについては、こちらで詳しく書いています。
係長→課長への推薦文 例文
✅ 例文(生産管理部門・約370字)
〇〇さんを課長に推薦します。課長に必要な「任せる・決める・掛け合う」を、係長の立場ですでに実践しているためです。
〇〇さんは生産管理係長として、自分が担っていた日程調整の業務を班長2名に段階的に引き継ぎ、手順書を整えました。その結果、〇〇さんが不在の週も計画は遅れずに回っています。また、私が出られない営業部との月次の納期調整会議に代理で出席し、受注の優先順位を理由とともに示して合意をまとめてきました。昨年度は、課の残業時間を前年比15%削減する計画の叩き台を作り、実行の進捗管理も担っています。
課を任せるうえで確かめたい、任せる力・数字への責任・判断・他部署との交渉のいずれも、実績で確認できています。
課題は、予算策定の経験がないことです。来期の予算編成には私と並走して取り組ませ、着任後最初の予算は私が確認したうえで提出させます。
課長→部長への推薦文 例文
部長への推薦は、本部長や役員が書くことが多いと思います。型は同じで、根拠のスケールが「部全体」と「次の課長の育成」に広がります。
✅ 例文(物流部門・約330字)
〇〇課長を部長に推薦します。自課の成果にとどまらず、物流部全体と他部門をつなぐ判断を、すでに担っているためです。
〇〇課長は、2拠点の物流センター統合を責任者として進めました。営業・購買の両部門と出荷基準をすり合わせ、移行期間中に欠品を出さずに統合を完了させています。また、課内の係長2名を計画的に育て、うち1名には統合後のセンター運営を任せました。部の中期計画づくりでも、他の課長の意見をまとめる役を自ら引き受けています。
部長には、課を越えて部の方針を決め、次の課長を育てる役割が求められます。〇〇課長はその両方を、課長の立場で実行しています。
一方、経営会議での発言の機会はまだ限られています。着任までの間、月1回の経営会議に私の代理として陪席させる予定です。
実績が目立たない部下の推薦文の書き方
大きな数字の実績がない部下を推薦したい場面もありますよね。たとえば、表に出にくい支える仕事を担ってきた人です。その場合も、書き方次第で十分に伝わります。
コツは、成果の大きさの代わりに「規模・頻度・期間」と「周りの変化」を書くことです。
✅ 数字の大きさ以外で示せること
・頻度と期間:手順書の更新を1年間、毎月欠かさず担当した
・範囲:担当外の問い合わせや他チームの応援も引き受けた
・周りの変化:後輩が困ったとき、最初に相談に行く相手になっている
・引き取り:上司の仕事のうち、定例の調整業務を任されている
❌ 人柄でごまかした例
「真面目で責任感が強く、周囲からの信頼も厚い人物です。必ずや期待に応えてくれるものと確信しております。」
どんな人にも当てはまり、読み手は判断の材料を得られません。
✅ 事実に置き換えた例
「この1年、チームの手順書の更新を毎月欠かさず担当してきました。後輩が困ったときに最初に相談する相手も〇〇さんで、私が対応していた新人からの質問の多くを、今は〇〇さんが受け止めています。」
「信頼が厚い」と書く代わりに、信頼されていることがわかる場面を書く。これだけで、推薦文はぐっと具体的になります。
推薦文で損をする5つの書き方
推薦会議で読んでいて「もったいない」と感じる推薦文には、共通するパターンがあります。
| 損をする書き方 | なぜ損か | こう直す |
|---|---|---|
| 人柄だけで終わる | 本人を知らない人には判断材料にならない | 人柄が表れた行動の場面を書く |
| 今の役職での優秀さだけ | 次の役職を任せられる根拠にならない | 上の役職の仕事を担った事実を書く |
| 年次や順番を理由にする | 推薦の根拠がないと読まれる | 今担っている役割で推す |
| 盛る・欠点を書かない | 試験や面接の結果と食い違うと、推薦者の信用まで下がる | 課題を1つ書き、支え方を添える |
| 評価コメントの流用 | 答えている問いが違う | 4ブロックで組み直す |
❌ 3つが重なった推薦文の例
「〇〇さんは入社8年目となり、年次的にも主任に相応しい時期を迎えております。営業成績は常に課内トップクラスであり、真面目な人柄で周囲の信頼も厚いことから、ここに推薦いたします。」
年次・現職の成績・人柄の3つで構成されていて、「主任として何を任せられるか」が一行も書かれていません。

特に気をつけたいのが「盛る」パターンです。推薦文は、面接官が事前に目を通していることもあります。推薦文と本人の受け答えが食い違うと、評価が下がるのは本人だけではありません。
提出前に確認したい7つのチェック
書き上げたら、提出前に次の7つを確認してください。1つでも引っかかったら、そのブロックだけ書き直せば大丈夫です。
✅ 推薦文の提出前チェック
□ 冒頭の1〜2文で「誰を・どの役職に・なぜ」が言えている
□ 本人を知らない人が読んでも、場面が浮かぶ
□ 数字か「チームの変化」が少なくとも1つ入っている
□ 次の役職の仕事を「もうやっている」証拠がある
□ 課題を1つ書き、上司としての支え方を添えている
□ 本人が書く自己推薦文や面接で話す内容と、事実が食い違わない
□ 会社の書式・字数・提出期限を守っている
推薦文を出したあとに、上司がやること
推薦文は、出したら終わりではありません。部下が昇格試験に臨むなら、上司にできることがまだあります。
期待と課題を、本人に言葉で伝える
推薦文そのものを本人に見せるかどうかは、会社のルールに従ってください。見せられない場合でも、何を期待して推薦したのか、何が課題だと思っているのかは、1on1で直接伝えておくのがおすすめです。本人にとっては、それがそのまま試験準備の軸になります。
試験で話す材料をそろえておく
推薦文で書いた事実は、論文や面接で本人が語る材料と重なります。面接では、推薦の根拠が本当かどうかを本人の言葉で確かめられることもあります。部下と一緒に、推薦文で書いた場面を本人が自分の言葉で話せるか、確認しておくと安心です。
このとき上司が昇格試験の全体像を知っておくと、部下の準備をずっと支えやすくなります。試験の種類や流れは、こちらで整理しています。
見送り・不合格のときこそ、次の材料をつくる
推薦しても、試験の結果や会社の枠の都合で昇格が見送られることはあります。そのときは結果を一緒に振り返り、次の1年で何を任せるかを決めましょう。次の推薦文の「根拠」のブロックを、上司が意図してつくっていくイメージです。
✅ 部下の試験対策を支えたい方へ
昇格試験ラボのメルマガでは、合格者の回答実例付きのケーススタディ対策資料を無料でお届けしています。部下の答案や面接の準備を見てあげるときの「評価者の目線」をつかむのにも使えます。
部下の推薦文についてよくある質問
Q1. 推薦文の文字数はどのくらいが適切ですか?
会社の書式と字数の指定に従うのが大前提です。決まった欄に短く書く形式なら、4ブロックをそれぞれ1文に縮めてください。自由記述で指定がない場合は、この記事の例文(350字前後)を目安に、事実のブロックを厚くするとまとまりやすいです。
Q2. 推薦文は部下本人に見せるべきですか?
会社のルールに従ってください。推薦文を本人に開示しない運用の会社もあります。見せられない場合でも、何を期待して推薦したのかと、課題だと思っている点は、1on1などで直接伝えておくと本人の準備に役立ちます。
Q3. 部下に下書きを書いてもらってもいいですか?
材料を出してもらうのはおすすめですが、文章は上司が自分の言葉で書きましょう。本人の言葉で書くと自己推薦文と同じ内容になり、上司の目で見た事実と評価という推薦文ならではの価値が薄れてしまいます。
Q4. 推薦文に課題を書くと、不利になりませんか?
昇格を見送る理由になるような重大な問題ではなく、「経験の幅」のような伸びしろを1つ選び、上司としての支え方を添えれば、不利になるどころか推薦の信頼性が上がります。欠点がまったく書かれていない推薦文のほうが、読む側は不安を感じやすいものです。
Q5. 推薦できないと思う部下から、推薦を頼まれたらどうしますか?
推薦は上司の判断なので、無理に書く必要はありません。ただし「今は推薦できない」で終わらせず、何ができるようになれば推薦できるのかを具体的に伝え、次の評価期間の目標に落とし込みましょう。それが次の推薦文の材料になります。
まとめ|推薦文は、上司が部下の「次」を保証する文章
✅ この記事のポイント
・推薦文を読むのは、本人を知らない人。知りたいのは「任せて大丈夫か」の根拠
・型は「結論→事実→根拠→伸びしろ」の4ブロック
・根拠には、次の役職の仕事を「もうやっている」事実を書く
・課題を1つ書き、上司としての支え方を添えると信頼性が上がる
・書く前に部下から材料を集め、文章は上司の言葉で書く
推薦文は、部下のために書く文章であると同時に、上司としての目利きが試される文章でもあります。推薦会議で読む側に回ると、そのことがよくわかるんです。
まずは推薦したい部下と、15分だけ1on1の時間を取ってみてください。5つの質問の答えがそろえば、推薦文の半分はもうできています。
